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鳥取地方裁判所 昭和35年(行)3号 判決 1963年5月31日

原告 谷岡英範

被告 鳥取検察審査会

主文

原告の本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三五年九月一五日原告申立にかかる鳥取検察審査会昭和三五年第四号軽犯罪法違反被疑審査申立事件につきなした検察官の不起訴処分は正当である旨の議決は無効である。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因を次のとおり述べた。

一、原告は、昭和三四年八月一〇日訴外池内雅臣の経営する「吉野寿司店」が連夜喧騒にて安眠を妨害すること甚だしいので、同訴外人に対し度々戒告するもきかないので、鳥取地方検察庁に告訴したが、同庁検察官は同年一一月三〇日右告訴事件を不起訴処分に付し、その旨原告に通知した。

そこで、原告は、昭和三五年八月一〇日被告に対し右不起訴処分に対する審査申立をなしたが、これに対し被告は、同年九月一五日検察官がなした不起訴処分は正当である旨の議決をなし、その旨原告に通知した。

二、しかしながら、被告のなした本件議決は、その要件を欠き明白且つ重大な瑕疵を有するから無効である。即ち、本来検察審査会の議決においては申立人の尋問をなすことは議決の要件ではないが、同会において申立人の尋問をなすことを決定した以上、右決定を取り消さない限り、申立人の尋問をなすことは検察審査会の議決の要件となるところ、被告は申立人たる原告の尋問をなすべく決定し、昭和三五年九月三日附呼出状によつて原告を同月一五日午前一〇時に召喚したので、原告は同日出頭したが、判例等調査の要あるにより期日変更の申立をなし、被告もこれを許容し、同日は原告の尋問をとりやめたものの、その後前記原告の尋問をなす旨の決定を取り消していないのに拘らず、尋問期日の指定、再呼出の通知もせず、突然本件議決をなしたものであつて、本件議決は、その要件を欠き無効というべきである。

よつて、原告は被告に対し本件議決の無効なることの確認を求める。

被告代表者は、

本案前の申立として、主文同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、検察審査会制度は、検察事務の遂行に民意を反映させることを目的とし、そのため検察審査会は、(一)検察官の不起訴処分の当否の審査、(二)検察事務の改善に関する建議又は勧告のみをその任務とするものであり、これはすなわち司法目的に奉仕し、刑事司法運用の一端を担当する準司法機関ともいうべきもので、その議決は準司法処分というべく、従つて一般行政処分とその性質を異にし行政事件訴訟特例法にいう行政庁の処分に該当せず本訴は不適法である。

二、然らずとするも、本件審査事件被疑事実の要旨は「被疑者池内雅臣は鳥取市東品治町駅前マーケツト内店舗において寿司屋「吉野寿司」を経営し、寿司酒類の販売を業としているものであるが、昭和三四年七月頃から同年一〇月二〇日頃までの間数回右店舗内において所轄鳥取警察署員の制止があつたのに、これをきかず正午頃から午前三時頃までの間多数の客に飲酒させ、人声を異常に大きく出して右店舗附近の静穏を害し、近隣に迷惑をかけたものである」という軽犯罪法違反事件であるから、刑事訴訟法第二五〇条第六号により昭和三五年一〇月一九日をもつて一年の公訴時効が完成済であるから将来もはや右被疑事実の公訴提起の余地なく、この起訴による満足を意図する本訴は利益がなく不適法である。

次に、本案の申立として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一は認める。

二、請求原因二のうち、被告においては原告の尋問は審査事件の要件ではない点及び原告主張経過で被告が原告を呼出したこと、同主張理由で尋問期日延期申請があつたことは認めるが、その余は否認する。即ち、昭和三五年九月一五日右延期申請に対し、被告は公訴時効完成の期日も切迫しているので、右延期申請を却下し直ちにその場で原告を尋問し、次いで証人池内雅臣を尋問したうえ、不起訴記録を精査して本件議決をしたものであり、適法な議決であつて何等所論の瑕疵はない。

よつて、原告の主張は全く理由がないので、原告の請求は棄却さるべきである。

(証拠省略)

理由

まず、本訴訴訟要件につき考える。

裁判所法第三条によれば、司法裁判所は法律に特別の規定なき限り法律上の争訟即ち、当事者間の具体的権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であつて法律の適用により終局的に解決しうべきもののみにつき裁判権を有するに過ぎないものであるところ、わが現行刑事訴訟制度では、刑事訴訟法第二四七条において「公訴は、検察官がこれを行う。」ものとして、国家訴追主義をとり、しかも原則として検察官起訴独占主義を採用し、ただ同法第二六二条ないし第二六八条に規定する準起訴手続において右独占主義の例外を認めているに過ぎないが、これとて国家訴追主義の例外ではなく、我が国が部分的にも被害者訴追主義を採用していると解すべき根拠となる法規は見当らない。従つて、かかる法制のもとでは、右例外の場合を除くほか、犯罪により害を被つた者は告訴又は請求をし、また、一般私人は告発をして、単に検察官の公訴の職権発動を促すことができるに止まり、起訴請求権を付与されているわけではなく、只検察官の起訴不起訴の決定によりなされる公訴権の実行の適正、不適正により左右される国家社会秩序の確立の程度につき、その国家社会の構成員として抽象的、反射的利害を受けるに過ぎない。

そして、検察審査会は、かかる反射的利害に対する反応ともいうべき民意を公訴権の実行に関し反映させてその適正な運用を図るために設けられたもので、検察官の不起訴処分の当否につき、告訴若しくは告発をした者及び被害者等から審査の申立があつた場合若くは自ら職権で審査をなすべき旨議決した場合に審査をなし(検察審査会法第一条、第二条)、その結果議決したときは、理由を附した議決書を作成し、その謄本を当該検察官を指揮監督する検事正に送付するが(同法第四〇条)、起訴を相当とする議決があつても、当然に起訴の効果を生ずるわけでなく、又検察官を起訴に義務づけるものでもなく、ただ検事正は、その議決を参考にし、公訴を提起すべきものと思料するとき、起訴の手続をしなければならないだけであり(同法第四一条)、これとても、国家訴追主義、検察官起訴独占主義の例外でなく、検察審査会の議決は、その内容、性質上国家が独占する公訴権の具体的行使(実行)の適正、不適正に対する判断を示すに止まり何等申立人又は第三者の具体的権利義務に影響を及ぼすものでなく、只その判断如何によつては間接的に前記起訴、不起訴処分により、社会一般が受けると同様な反射的利害を申立人第三者が蒙ることはあるがこれは抽象的、社会感情にすぎず、前記法律上の争訟として要求される個人の具体的権利義務に関する利害紛争とみられない。

そうだとすると、かかる議決に関する紛争は、裁判所法第三条にいう法律上の争訟に当らず、かつ、検察審査会法その他の法律において検察審査会の議決につき司法裁判所に出訴することを認めた規定も存在しないので、本件議決の無効確認を求める原告の本訴はそれ自体司法裁判所の裁判権のない事項を目的とする不適法な訴えというべく、却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 秋山正雄 杉本昭一 鐘尾彰文)

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